追憶のマリア
 俺は急に、『れんの頭を吹き飛ばしてやりたい』という衝動にかられ、そのまま銃を構え続けた。 


 そんな俺を見て、れんの顔が少しこわばった。


「おい、いつまでそうしてる気だ?」


 れんの言葉で、俺は自分に課された任務を思い出し銃を下ろした。


 れんは安堵の表情を見せ、


「こっちだ。」


 顔を軽く傾け進行方向を示し、俺に背を向け走り出した。


 俺もそれに続いた。


 左耳にはめ込まれた無線機から、青山さんの声が聞こえた。


「そっちを出た車十数台が2km先で再び集結し、また同じような巨大倉庫へ次々と入って行った。」


「積み直す気だ。」


 俺はそう言って舌打ちした。


「何か情報取れねぇーか?」


 その言葉から、青山さんの藁をもつかみたい感が窺えた。


 『次に薬を積む車のナンバーは?』なんて、れんに聞ける訳ねーだろーが!!


 俺は走りながら心の中で叫び、


「今それどころじゃねー!」


 と吐き捨てた。


 そうこうしてる間に、俺達は倉庫区画を抜け、目的のオフィスビルに到着した。


 れんは地下駐車場へと下りて行き、あらかじめ買収してあったとみられる警備員のいる警備室の前を何食わぬ顔で通り過ぎ、ビル内部へ難なく進入した。






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