追憶のマリア
 深夜のオフィスビルは真っ暗で静まり返っており、その殺風景な様のせいだろうか、内部の空気が外よりもひんやりとしているように感じた。


 ビル内すべての電源は落としてあるらしく、自販機もエレベーターも何もかも光を失った状態で、役目を為さずに夜の闇に眠っていた。


 れんは非常階段を一気に駆け上がった。


 俺もれんに続いたが、さすがに最上階まではキツかった。


 それでも何とか、れんに引き離されることなく一定の距離を保って後を追った。


 そして、俺達は屋上に飛び出した。


 尋常でないくらい心臓があぶって、苦しくて顔を歪めながら左胸を右手で押さえた。


 れんの方は、少し息があがっている程度だった。


 れんは、急激な運動による疲労感剥き出しの俺を見て失笑した。


 俺はれんがタバコを吸わないことを思い出した。


「ツヨシ…だから言っただろ?『いい加減タバコやめろ』って…」


 俺は一瞬、れんが何を言ってるのかわからなかった。


 でもすぐに、ポルノ映画館での、青山さんの言葉を思い出した。


 『いい加減タバコやめたらどうだ?身体に悪いぞ。』




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