追憶のマリア
 もう迷わない…


 あんたと出逢って俺は、『もう一度、自分の為に生きてみたい』、いつしかそう思えるようになった。


 だから、もう迷わない…


 俺は…俺の為の選択をする…


 俺は…俺が守りたいものを守る…


 決してこの手を離さない…







 暗闇の底に落ちていくれんが、最期のあがきで放った銃弾は、俺の頬をかすめ、俺の頬からスーッと血が滴った。


 俺は両手で彼女をつかみ、残ってる力をすべて使って、一気に彼女を引き上げた。


 俺たちは、その場に向き合うようにして、一緒に崩れるように膝を付いた。


 彼女の目から、涙が次から次へと溢れ出て、俺は何だか大切なものがどんどんこぼれ落ちてしまうような、そんな気がして、慌てて彼女の涙を拭った。


 今日ここへ来る時、見納めだと思った顔が、今目の前にある。


 もう二度と会うことはないと思った彼女が、ここにいる。


 彼女を見詰めながら、彼女の髪をなでたら、どうしようもなく愛しくて…








 俺はとっさに彼女を抱きしめた。






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