追憶のマリア
「ねぇ…海司…私のこと愛してる?」


 いつものように田所の部屋で愛し合った後、ベッドの上で、田所の腕に抱かれながら、母は尋ねた。


「さぁね。」


 田所は悪戯っぽく笑う。


 だがすぐ、いつもと違う母の様子に、


「何かあった?」


 とうつむく母の顔を田所は不思議そうに覗き込んだ。


「私ね…」


 母が言葉を詰まらせると、


「何だよ?気になるだろ、言えよ。」


 じれったそうに、急かすように田所が言う。


「赤ちゃん…できたみたい…」


 そう言って、自分の顔を覗き込むように首を傾げている田所を、母は不安そうに見詰めた。


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