追憶のマリア
「幸せになってくれ。」
そう願うのは、これが二度目だった。
彼女はそんな俺の祈るような言葉に、
「あなたが幸せにしてくれないの?」
と、少し冗談めかした軽い口調で、『ちょっと言ってみただけ』とでもいうように言った。
俺は、彼女からそっと離れて再び彼女を見詰め、
「俺は…あんたの傍にいられない…。」
と…そう伝えたら、温かいものが俺の頬を伝った。
「うん…わかってる…」
泣きながら必死で笑おうとする彼女は、眩いほど美しく、その存在は、俺の心の傷を優しく癒していく。
「俺は…」
彼女に何かを伝えたくて、開いた俺の口を、彼女はそっと、細い華奢な右手で塞ぎ、
「いいの…わかってるから…」
そう言って優しく微笑んだ。