追憶のマリア




 部隊がようやく屋上へたどりつき、そのうちの一人が彼女に近付き、『立てますか』と尋ね、彼女が頷くとそっと抱きかかえるように彼女を立たせた。


 そして彼女を連れて屋上を後にした。


 下から拡声器で叫んでたヤツだろうか、俺に近付いて、


「大丈夫ですか?」


 と、右手を差し出した。


 俺はそんな彼を見上げ、彼女の旦那…あの消防士が俺に差し伸べてくれた大きな力強い手を思い出した。


 そして今度こそ、差し出された手をしっかり握り、俺は立ち上がった。








 下へ降りると、パトカーが数台停車していて、辺りの暗闇を、赤い光がくるくると回りながら照らしていた。


 俺がパトカーのボンネットに腰掛け、救急班の女性に頬の擦り傷の手当てを受けていると、数m先に誰か立った。


 俺はその人影に目をやった。


「青山さん…」


 俺は青山さんを裏切った罪悪感で、言葉が見つからなかった。


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