追憶のマリア
 救急班の女性に、手当てはもういいと伝え、立ち上がった。


 青山さんの意に背いて、俺はれんを死なせてしまった。


 謝るべきなのか、何か気の利いた言い訳を言うべきなのか…


 どうすべきか全くかわからないまま、それでも俺は青山さんに近付き、青山さんの正面に立った。


 青山さんは俺をしばらく見詰めた。


 やっぱり怒ってるんだろうか…


 俺も青山さんを見詰め、その心中を読み取ろうとした。


 青山さんは、うんうんと二回小さく頷くと、ようやく口を開いた。


「お前は充分苦しんだ…。もう充分だ…。」


 青山さんのその言葉で、俺の心は解き放たれた。


 過去の呪縛から…


 俺が正義と信じて、この手を血に染めてきたことへの罪悪感から…


 愛する者を守れなかった後悔から…







 俺はその場に泣き崩れた。








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