追憶のマリア
―――――6年後―――――
公園で、母は弟の『悠斗』が遊ぶ姿を幸せそうに眺めていた。
あの事件の9ヵ月後、悠斗が生まれた。
事件を知る人たちに、『レイプされてできた子を産むなんて』とか、母が陰で色々言われていたのを俺は知っている。
でも、俺は嬉しかった。
母もきっと散々悩んで決めたんだろうし。
父親が犯罪者だとしても、生まれてくる子に罪はないだろうし。
何より…悠斗はとても可愛かった。
大きな目の中の漆黒の瞳はいつも少し潤んで輝き、真っ直ぐな黒髪がとてもよく似合っていた。
「お母さん、いくよ!」
悠斗が持っていたボールを投げた。
力が入りすぎて、ボールはとんでもない方向へ、ポーン、ポーンとバウンドしながら逃げていく。
悠斗がそれを走って追った。