いちご塾
「私は敬意を持っておりますよ、Mr.セルラー」
「ずいぶん懐かしい呼び名じゃあないか」

物陰から現れた女性は、綺麗なストレートの黒髪をバッサリと肩口で切りそろえ、真っ黒なスーツに身を包んで、その黒さに艶がかかるような声で話しかけてきた。

「CIAエージェント、キャサリン・カールです。Mr.セルラー、仕事の依頼に参りました」
「やめてくれ、型落ちした携帯に今更何を……」
「お、オッサン?」

突然の事態が飲みこめず目を白黒させるロイドをキャサリンが鋭く睨む。ロイドが怯むと、ボルスが手をヒラヒラと振って「いいんだ」というそぶりを見せる。

「この方は15年前CIAのESP特務諜報員、通称<Mr.セルラー>と呼ばれたトップエージェントです」
「…はぁ!?」

大声を出すボルスをわざと無視するように、キャサリンは続けた。

「ダグラス長官からの直接の依頼です。受信者(レシーバー)はこちらで用意するからと」
「ふぅん、ダグラスがね……」

少し顎に手を当て、考え込んでからうんうんと頷くのを見て、キャサリンは現れてから初めて笑顔を見せた。

「やっていただけるのですね!」
「ああ、ただし条件がある、受信者は俺が連れていく」

そう言うと心底意外そうな顔をしてキャサリンが尋ねてきた。

「いるのですか?周波数の合う者が?」
「ああ」
そう短く告げて、いつの間にか間に割って入っていたキャサリンの前を遮るように腕を伸ばし、ロイドに握手を求める格好になった。


「来るかい?お前さんの言う、<正義の味方>ってやつの職場見学だ、さあ、どうする?<ロイド>?」


ロイドはハッとして、まだせわしなくパチパチとやっていた目を見開いた。

「難しい話は後だ、今お前に聞きたいのは<覚悟>だけさ」

「ボルス…さん…」

そう言ってゆっくりとボルスの手を握ると、その中年男性はニカッと笑った。

「おいおい、いつもの通り<おっさん>でいいぜ、<巻き毛ひよこ>の坊や」


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