やさしいじかん。
浴衣を着た小さな女の子が、ぱたぱた通り過ぎていった。
「……」
中学の始めまでは、毎年、お母さんが浴衣を着せてくれた。 浴衣着てくれば良かったな… とつぶやいてしまった私の背中にコータが手を回してくれた。
コータも「分かって」いるのだ。そう感じた。
昔から、すぐ顔に出るから。
遠くの山へ沈んでゆく夕陽。
コータは、まっすぐ私を見た。
「友…。」
「……」
黙って顔を向けた。
「俺さ…。」
「俺、冷たくしたり、喧嘩になって嫌いって言った事、何度もあるよな……。でも、でも、本当は、そんな事思った事なかったよ。」
周りは本格的に暗くなり、盆踊りの灯りがゆらゆらして、暗い海に浮かぶ船のようだ。
「……!。」
そよ風で近くの木の葉がざわめき、私のちいさな嗚咽を隠した。
「いまさ…すごい良かったって思ってる。………お前といて、良かった。」
どんどん、どんどん、あふれてきた。鼻をすすった。
「………わたしもだよ。」