文章のおべんきょう
周一郎が結婚もできず姪と同居している
家は、古くて大きくて広い。

一階の主寝室と和室は、いつ伯父が帰国
してもよいように空けてある。周一郎と
多夢は、それ以外の部屋を使っているの
だが、広すぎてもてあますほどであった。

建築後六十年近くを経た古い木造建築
なのだが、堅牢で精緻なこと、今日の
建売住宅より格段にすぐれている。

雨漏りどころか、建具の動きもほとんど
狂いがない。天井は高く、壁は厚く、
床は頑丈の二字を物質化したようだ。


・・綿矢りさは、家を外側から「ビデオ
カメラ的」に見ていって、外観の描写や
周囲の家々との対比から書き始めたよう
に思いますが、

田中芳樹の方はまず、「古くて大きくて
広い」と「時間的・空間的」にざっくり
大づかみに書いています。

ある意味、綿矢りさよりもさらに外側
から書き始めた、と「こじつけ」られ
そうです(笑)この作者は歴史や壮大な
SFが好きですので。

次に伯父のために部屋を空けてあると、
ここにいない人のためのスペースから
説明します。

それから今この家に住んでいる2人が
使うスペースの事を言いますが、
広すぎてもてあますほどと、読者に
「大きなイメージを与える言葉」。

その広い家は「60年近くを経た」
(古さを「数字」で具体的に説明)
「古い木造建築」(材質を記述)であり
ますが、

今の建売住宅よりも堅牢で精緻で、
雨漏りもしないし建具の狂いもないとの
こと。あ、ちなみに「建具」(たてぐ)
というのは襖や戸や障子などの総称です。

天井は高く、壁は厚く・・と「広さ」や
「堅牢さ」を示す言葉が並びますが、

次の「床は頑丈の二字を物質化したよう
だ」というのが、ハイ、「比喩」です!
(出ました!)

この作者はこういう表現がかなり多く、
うまいのです。僕ならせいぜい「床も
頑丈である」とか「頑丈そのものである」
と言ってすませてしまうところを、

さすがは人気プロ作家、「頑丈の二字を
物質化したようだ」などと凝った言い
回しをするのですね。

「~したようだ」というのが比喩ね。
いろいろな作家の比喩の表現を見つけて
ノートに書き出してみると参考になるの
かも・・















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