SでもMでも
 


 「家に来るに決まってるじゃ・・
  うわっ」
 

 正貴は思い切りつきとばされ、後ろ
 から盛大に転び思い切りお尻を打っ
 てしまった。
 
 「痛ぇ・・・」


 いつか泣かしてやる、と苦しそうに
 呟き、瀕死のカエルのようになって
 いる弟を踏み、美央は急いで部屋に
 戻った。



 早く、
 早く支度しなくちゃ。



 髪も眉も整えてる暇はない。
 

 とにかく急いで制服を着て、慌てて
 階段を下がると、外から母の甲高い
 笑い声がする。

 
 はしゃいでいるのか、声がとても
 響いている。
 いつも近所を気にしている母なので
 大声を出すのは珍しい。
  
 嫌な予感がして、玄関からそっと
 外の様子を窺うと、


 伸が美智子と門の近くで話している。



 出たぁ!

 「やばいやばいやばいやばい・・」

 
 暑くもないのに、汗が首筋をつたう。
 動悸が激しさを増す。
 まるで祭の時の太鼓だ。
 
 胃が痛い。


 「そうだ、裏から出れば」

 美央は気づかれないよう、静かに靴を
 取った。
 誰にも見られる事無く、裏口から出るのに
 成功して安堵していると、


 わん!

 犬小屋で寝ているはずの太郎が、喜んで
 出てきてしまった。


 「た・・太郎、やめ・・やめて」

 わん!わん!
 
 遊んで欲しい太郎はとにかく吠える。
 

 
 

 
 
 


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