SでもMでも


 
 「何って・・」
 
 不思議そうに伸が美央を覗き込む。

 「心配で」
 
 
 顔が物凄く近い。
 ちょっとでも動くと、触れてしまい
 そうな気がする。
 
 
 胸が苦しい。


 「近い、近いから」

 伸の頬を両手で挟み必死で押しの
 けようとするが、抵抗も空しく
 両手を掴まれてしまった。


 静かだった。
 物音一つしない。

 こんなに静かだと、動悸が聞こえて
 しまうんじゃないだろうか。

 
 「大丈夫だった?体」


 質問内容にカッとなりそうになった
 が、この体勢で反撃しても無駄とい
 うことが、痛いほど分かっていた。


 「・・・・自分でやっといて」
 
 よく言う、と思う。
 
 
 「ごめんね」
 悪びれもせず伸は美央の頬に触れた。
 

 「夢中になっちゃって」
 
 「はあ!?」


 顔から火が出そうになる。
 
 「もう、何でもいいからどいてよ!」
 押しのけようと、必死で体をばたつか
 せるが、伸の体はびくともしない。
 
 
 「あはは」


 気が抜けたような伸の笑い声に、
 何故かホッとする。

 
 私、なんでホッとしてんの?
 
 複雑な気持になり、美央は伸を睨んだ。


 笑い方も抑揚の無い話し方も以前と
 全く変わらない。
 なのに、どうだろう。
 

 今、上に乗ってるモノは以前のような
 モヤシではなく。
 肩幅も、腕の太さも、手の大きさも
 男になってしまっていた。



 そうだ、
 あの時も。



 昨夜の事を思いだしそうになる。

 「良いコぶらないでよ」
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 


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