SでもMでも
「俺、ふざけてあんな事言ったりしないよ」

 ふわりと笑う。
 

 その笑顔に美央は少しホッとする。


 勘違いだ。
 きっと。


 しかし、その安心は一瞬にして
 崩された。

 伸の長い腕が、美央の肩を捉えたのだ。

 「みーちゃん、怖いの?」
 思いのほか強い力に動揺する。
 
 動悸がやまない。
 

 美央の頬に、掌が優しく触れる。
 こいつの手、こんなに大きかった・・?
 
 掌の大きさになのか、
 それとも別の何かなのか。
 胸が騒がしい。


 心臓の音が聞かれるんじゃないか、と思い
 気が焦る。

 こんな奴に・・
 こいつを怖いと思う日が来るなんて。

 冗談じゃない、 
 ばかばかしい。

  
 弟の友達だった伸と初めて会ったのは
 中1の頃で、奴はランドセルをしょった
 ガキだった。
 
 
 細身で、しょっちゅう鼻血を出す伸に、
 「モヤシ」とか「欲求不満」などと、よく
 からかったものだった。

 
 もしかして、それを恨んでる??

 「怖いわけないでしょ。あんたみたいな・・」
 今は、モヤシじゃない。
 
 身長はもうずっと前に越されていた。
 肩幅も、腕の太さも、手や足の大きさも。
 

 男、なのだ。
 目の前にいるのは。

 
 「なんか変!あんたおかしいよ。本気に
  なっちゃって」
 
 この場から去りたい、と気が焦る。
 
 こんな子供の言い訳見たいのじゃなくて。
 何か、何か言ってやりたいのに。
 
 でも今は、どうやったら逃げれるかが
 先決だ。
 
 
 「みーちゃん」
 
 今までに聞いたことがない声で、彼は
 優しく囁く。
 
 動悸が、一層激しさを増す。
 体が、金縛りを受けたかのように
 動かない。
 

 動け、動け、と意識するのに。
 ままならない。
 
 

 「しよ。」


 
 その瞬間、美央は思ったのだ。
 もう、逃げられない、と。








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