SでもMでも

2か月前

 
 
 ―2か月前、正貴と伸―


「あのバカ、
  また男変えたみたいなんだよな」
 
 残りの1滴さえも逃さない、という勢いで
 正貴はパック牛乳を吸い上げた。

 
 もはやパックは原型をとどめていない。


 「正貴、牛乳好きだよね」

 相変わらずの無表情で伸が言う。

 「おう」


 本来であれば、牛乳は1リットルで
 ラッパ飲みするのが日課だ。

 一刻も早く身長を伸ばしたい正貴は、
 自分専用の牛乳を毎日購入している。
 
 それなのにもかかわらず、暴君・美央に
 また奪われてしまったのだった。
 
 しかも美央は牛乳風呂にする、と言い
 1リットル使い切ってしまったのである。

 
「俺専用って書いてあるのによぉ・・
  しかも風呂に使うとか、意味わかんねえ」


 1年先に生まれただけというのに、
 姉の美央は昔から正貴に
 やりたい放題、したい放題だ。
 
 まるで、女ジャイアン。
 アマゾネス。
 
 いつか嫌がらせしてやる、と
 心に固く誓うだけの正貴なのであった。


 「あんな二重人格のどこが良いんだ?」
 自分を含め、男は本当にバカだと思う。
 
 身内の欲目、と言われるかもしれないが
 美央は美少女だ。

 学校の前で他校の男子から
 待ち伏せされるのは日常茶飯事、
 通学路で告白される事も少なくない。
 

 学祭では、メイド姿になった美央を
 指名する男性で長蛇の列ができ、
 写真は激売れだったらしい。
 

 ミス南高と騒がれるのも頷けはする。
 

 成績は常に上位で、生徒会役員。
 男女ともに友達も多く
 教師の人望も厚い。


 しかしそれは仮の姿で、家では
 とんでもない暴君なのである。
 

 パシリは日常茶飯事、外出先でも
 呼び出しされたら迎えに行くのは必須。


 拒んだら後ほど手厳しい制裁が
 待っている。


 以前はそんな姉の横暴ぶりを
 周囲に訴えたものだが、
 誰も信じず、今はあきらめの境地である。


―しかし―


 最近の暴君ぶりは正貴だけでは
 とどまらない。
 
 
 
 
 









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