SでもMでも

バケノカワ



 「起きなさい!もう7時半よ」
 母の美智子が布団をはぎとった。
 
 「今日・・・・休みたいんだけど」

 布団から離れない美央を足で蹴飛ばし、
 美智子は「邪魔!」と言い捨てた。

 「あんた、学校の朝礼で挨拶するとか
  なんとか言ってたでしょうが」


 そうだった。


 毎月1日は学校行事の詳細を全校集会で
 生徒に伝達する日だ。
 それを行うのは書記の美央の役割で
 あった。

 
 「もう一人の書記がやるよ、そんなの」

 蹴落とされたまま動かない娘に、母は
 再び愛の蹴りを与える。


 「今日お母さん、お隣の奥さんたちと
  家で韓流ドラマ会するんだから!
  早く出てって!」
 
 忙しいんだからね!
 プリプリしながら階段を下りていく母
 を恨めしく思いながら、美央は重い腰を
 あげる。

 
 美央の気分とは裏腹に、今朝は快晴で
 憎たらしいほどに太陽が輝いている。
 
 「あーーーーー」
 学校、行きたくない。

 深い、深い、ため息をつきすぎてしまい、
 むせてせき込んでしまった。


 行けば伸に会ってしまうかもしれない。
 会いたくない。
 できれば、一生。

 
 「昨日の事は夢。」
 
 呪文を唱えるように、何度も何度も呟く。

 しかし、歩くたび体にひびく筋肉痛と
 腰のだるさが、昨日の事は現実だ、と
 美央に言い聞かせているようだった。

 
 こんな状態で伸に会ったら・・
 冷静にならなければならない。
 

 殴りつけるように冷水で顔を洗い、気持
 を落ちつけていると、背後から声がした。
 正貴だ。


 「顔洗ったんならどけよー。邪魔なんだよ」


 いつもなら鉄拳を喰らわせるところだが
 今日はそんな元気が無い。
 のろのろとタオルを取り、顔をふいていると
 
 「ちゃっちゃとやってくれよー。伸が来ちゃう
  じゃねーか」

 伸!?

 「来るって、どこに!」

 物凄い剣幕で掴みかかる姉に、正貴は
 思わずのけぞった。
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 


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