恋雫
いつまで経っても、手を髪から離してくれないその子。
「……なぁ…名前、ドロップでいい?」
「なんでよ」
「…なんとなく」
「雫とか、相川って呼ばないの?」
「俺は、ドロップのほうがいいの」
変な奴。
雫って名前なのに、なんでドロップ?
新種のニックネームの付け方?
ちょっと疑問に思いながら、前を向いた。
でも、やっぱり髪を離してくれない。
私の腰辺りまである長い髪の毛を、いじって遊んでいる。
三つ編みにしたり、ポニーテールにしてみたり…。
「…あの、女子の髪ずっと触ってる男子って…どうかと思うけど…?」
「…?…そうか?…こんなに楽しいのに」
た、楽しい?
「雫ちゃん、無理だって。コイツ、Sだから人が困ってんの見ると楽しくなるんだよ」
隣の席の子が、笑いながら言ってきた。
「そ、そうなんだ」
「でも、そこに人気があるんだけどね」
人気者…ですか。
私と総悟の出会いは、不思議な形であった。
それは、葉から落ちている最中の水の雫のように、曖昧な形で…。