恋よりも、
そして迎えた球技会一日目。
お昼を過ぎて午後、予想通りというか、保健室には二人だけだった。私は救護係のスケジュールを見ながら、珈琲を飲む先生に愚痴る。
「二時から当番の二年三組、サッカーの三回戦で来られないみたいです」
当番は一組三十分。短いようで長い時間。午後一番の当番だった組も、試合と被って来られなかった。
午前中はまだ良かった。綿密に振り分けただけあって、ほとんどの組がちゃんと当番に来てくれたから。でもやっぱり、トーナメントが進んだ午後は、予定が狂う。分かっていた事だけど、報われないなあと思ってしまう。
「んなの仕方ねえだろ。別に、いいんじゃねえの。誰も来ないみたいだしな」
「まあ、そう言われるとそうですけど……」
室内をぐるりと見渡してみる。
先生の言う通り、午後になってからまだ誰も保健室へは来ていなかった。人がいないから暇なのは助かるのだが、どこか釈然としない。
これでは暇を持て余すようかな、と少しだけ気分が沈んだ。
その時、ガラガラっとドアの開く音がしてそちらに目を向けると、
「あっ香月!」
入って来たのは同じクラスの佑美と弥代だった。
「どうしたの?」
「今やってるサッカーの試合終わったら、うちのクラスの試合なんだよ。なんと準決勝! だから見に行こう!」
「相手は二年生だって。負けられないわよね」
わざわざ知らせに保健室まで足を運んでくれたらしい。
私はチラリと先生を見た。
先生はこちらを一瞥すると無言で追い払う仕草をしてみせる。
「えっいいんですか? 当番の子も来るかわからないのに……」
「この調子じゃ誰か来ても俺一人で何とかなる」
「えっと……じゃあ、行きますね。ありがとうございます」
「おー」
「……グラウンドに居ますから、忙しくなったら呼んで下さいね」
「わかってる」
「……じゃあ、試合が終わったら戻って来ます」
軽く頭を下げれば、先生はひらひらと片手を振って応えてくれた。
先生一人で大丈夫なのかと不安は拭えないけれど、もしもの時は呼ぶと言っていたし、好意に甘える事にする。