恋よりも、
私は、どうすれば良かったのだろう。告白されてすぐ、強引にでもその場で断っていたら。彼に話し掛けられても笑わずに等閑(なおざり)な態度をとっていたら。試合を見に行かなければ。あんな顔をさせてしまう事はなかったかもしれない。少なくとも、傷は浅かったはずで。
今までだったら、多少の後悔も今後に活かそうと前向きに考えられた。それが両親の教えに基づいた結果だったからである。
けど、根底を否定された今、何が大切なのか私にはもう、分からなかった。
ぐるぐると思考の渦に呑まれそうになっていると。
「やっぱ熱、あんじゃねえか」
不意に額に舞い降りた冷たい感触。それが人の手だと気付いたのは、目蓋を上げて顔を覗き込む先生と目が合ってからだった。
「はぁ……ったく、お前いつからだよ」
消えた冷たさが寂しい。
離れていく手をぼんやり目で追っていると、先生が苛ついたように眉を顰める。
「おい、聞いてんのかよ。熱、いつからだって言ってんだよ」
「熱、あるんですか?」
会話になっていない私の返答に、先生は舌打ちをした。
「とりあえず、熱計れ」
そう言って体温計を差し出す先生に、だけど私はそれを受け取らなった。代わりに動いたのは口だった。
「先生は、自分が嫌になることって、ありますか? ……私はしょっちゅうです」
何故そんな事を言ったのか分からない。ただ、溜まりに溜まったこの気持ちを、これ以上自分の中だけで抱き続けるだけの気力はなかった。
「午後、高瀬くんに告白の返事をしたんです。高瀬くんを、傷付けちゃったんです。私がちゃんとしていたら、こんなことにはならなかったのに」
どんなに後悔したって、事実は変わらない。わかっているけれど。私は、
「自分が、どうしようもなく、嫌なんです」
どれだけ向上心を持っても、理想とする自分には届かなくて。
「リコちゃんだって、私がいなければ、好きな人と別れる事は、なかったのに」
向上心を持つ事さえ、もう正しいのか分からない。
「もう、いやだ……」
私は間違っていたのだろうか。
先生は、お昼と同じように口を開く事はなかった。それが悲しいのか、虚しいのか、寂しいのか、ぐちゃぐちゃになった感情は、目から溢れ出て私の腕を濡らした。