恋よりも、
一通り吐き出すと、幾らか冷静な部分が戻ってきた。私が落ち着くまで先生の気配は近くにあった。隠してはいたけれど、泣いていた事などまるわかりだろう。一日に二度も泣いた姿を見られては、流石に先生でも……否先生だからこそ、気恥ずかしい。
重い頭を動かし上半身を起こす。身体が懈いと感じるのは、熱のせいだけではないだろう。
無言でこちらを見つめている先生の手に体温計が握られているのを見て一瞬焦る。けど、特に怒っている様子はなくてほっとする。
「……あの、すみませんでした。二回も泣いてしまって。……もう、大丈夫なんで。気に、しないで下さいね」
湿った空気を振り払うように明るい声を出す。
「……私には、もうどうすることも出来ないし、勝手だってわかってますけど、リコちゃんや高瀬くんには、これから幸せになってほしいです」
ふふ、と先生に向かって微笑んだ。すると今まで無言を通していた先生がここにきて口を開いた。
「“幸せ”、ねえ……。じゃあお前は、何時になったら“幸せ”になれるわけ?」
「え……?」
「いつ、恋愛すんの?」
それは私に動揺を与えるには充分な一言だった。
そんな事を、先生に訊かれるとは思っていなかった。だって、今までずっと私に意見する事はなく無関心を通していたではないか。だからこそ、先生に話す事が出来たのに。どうして今になって……?
「……それは、私が」
「自分が嫌いとか言ってる奴が、自分を認められるわけねえだろ。んなの、死ぬまで待ったって叶いやしねえよ」
先生は、容赦なかった。
言い返す言葉が見つからない。先生の顔を見ることが、出来ない。
「お前はさ、ただ、逃げてるだけなんじゃねえの」
「――っ」
それは、正に“核心”だった。
シーツの上で手を握り締める。
胸がズキズキと痛い。
高瀬くんに言われた時とは比べ物にならなかった。
「……なあ原田」
不意に先生の声が優しくなる。触発されたように顔を上げると。
「俺は、いつまで待てばいい?」
先生は驚く程真剣な表情で、じっと私を見つめていた。