恋よりも、


「先、生……?」

それは、いつか目にした表情と酷似していて。一気に緊張が走った。縛られたように先生から目を逸らすことが出来ない。

そして。

「……完璧な人間なんていねえんだよ」

次の瞬間、唇が温かいものに塞がれていた。

先生にキスをされている、と気付くのに時間はかからなかった。止めようにも熱がある体では抵抗すら儘ならなくて、後頭部を押さえられ深くなる唇に、全身の力が抜けてしまい指一本動かせなかった。

「……んっ……」

初めての体験に、呼吸の仕方が分からない。徐々に息が苦しくなり、ただでさえ重い頭がより一層ぼおっとし始めた。ヤバい、そう思っても身体が動かない以上それを伝える術はなくて。そして、頬に一筋雫が伝うのを感じたのが最後、私は意識を手放した。



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