恋よりも、
次に目が覚めた時、目に入ったのは見慣れた自分の部屋だった。
枕元の時計は午後九時を差していて、起き上がると、布団の上にぼとりと何かが落ちた。暗くても分かる。それは濡れたタオルだった。タオルを見て、身体に感じる懈さに納得した。熱があるのだ。
同時に、保健室での出来事を思い出し全身が熱くなる。鮮明に覚えているわけではないけれど、確かに、私は先生にキスをされた。そこでふと、疑問が浮かび上がる。保健室で気を失ったのに、どうして自室で目を覚ましたのだろうか。その疑問を深く追求する前に、ガチャリとドアが開いた。
電気がつく。明るくなった視界で見ると、私の母親たる人物がドアの前に立っていた。
「香月! やだ、起きたなら電気くらいつけてよ。お母さん吃驚しちゃったじゃない」
もう、と言いながら笑うお母さんに、私は先ほどの疑問をぶつけた。
「私、どうしたの? 学校の保健室に居たはずなんだけど……」
「学校から連絡が来たのよ。香月が熱出して寝てるって。それで仕事切り上げて香月迎えに行っちゃった」
そう言って茶目っ気たっぷりに舌を出すお母さんに、申し訳なさが溢れてくる。
「ごめんね。仕事の邪魔しちゃって……」
お母さんにまで迷惑をかけて、私は一体何をやっているのだろう。
俯く私の頭を、お母さんは優しく撫でた。
「何言ってんのよ。こんな時しか一緒に居てあげられないんだから、むしろ謝るのはお母さんの方よ。それより、聞いたわよ。香月、バレー頑張り過ぎて熱出したんだってね」
「え……?」
「あの若い……保健医の先生が言ってたのよ。試合に負けて悔しくて泣いちゃったんだってね」
「!?」
先生!
ひとの親に何チクってるんですか!
「ちょっと安心した。学校は香月にとって泣けるくらい安心できる場所なのね」
「お母さん……」
「いやー、それにしてもいい先生じゃない。香月の事かなり心配してたわよ。それに、顔もお父さん並みに格好良かったし」
私を見てニヤリと笑うお母さん。その意味深な笑みは何なのだろう。
「お母さん香月を嫁にあげるならああいう男がいいわ」
「っお母さん!」