恋よりも、
「香月はさ、真面目過ぎなのよ。そりゃあ、そう育てたのはお母さん達だけど、火遊びをした事のない子は火の危険が分からないって言うじゃない。香月にはちょっと適当なくらいの男が丁度良いのよ。勿論、適当なだけじゃあ駄目なんだけどね」
つまりは何が言いたいのだろう。首を捻る私にお母さんは苦笑する。
「まあ、そこが香月の良いところなんだけどね。――じゃあ、熱計って。その間にお粥温めてくるから」
私は小さく頷いて、体温計を脇に挟んだ。
数分後。
結果は微熱の範囲を越えていた。幸い、今日は金曜日、土日と休めば月曜には学校へ行けるだろう。
「あ、計り終わった? 何度だったの?」
小さい丼と薬ののったお盆を手に、お母さんは部屋に入る。
「……八度、ちょっと」
「二分? それとも三分?」
「……二分」
「結構高いわね……。薬用意したから、食べたら飲むのよ。それとこれ、おでこに貼って」
渡されたのは、冷却シート。冷たくて気持ちが良いけど、あまり下に貼り過ぎると目がヒリヒリする、あれ。
フィルムを剥がして、髪を避けて額に貼る。……冷たい。
お母さん特製の梅粥を口に運びながら、私は訊ねた。
「……ね、お母さん。恋愛ってなに?」
きっと、親にする質問ではないのだろう。でも、確かな答えが欲しかった私には、他に訊く人が居なかった。
「まさか香月に訊かれるとは思わなかったわ……」
案の定、お母さんは驚いている。でも、私の真剣な顔を見て優しく微笑むと、言葉を選ぶように答えてくれた。
「うーんそうね。香月が何を知りたいのか分からないけど……でも。恋愛が何かなんて、そんなの、どうでもいいと思うの」
「……」
「だって、頭で考えて動くんじゃなくて、好きって気持ちで動くものでしょう?」
「気持ちで……?」
「そう。ねえ香月、恋愛が何かどうしても知りたいなら、まずは誰かを好きになる事ね。その気持ちも分からないのに恋愛が何か考えたって分かるわけないわ」
ふふっと楽しそうに笑うお母さん。私はもふもふと口を動かしながら、先生の顔を思い浮かべていた。