恋よりも、
月曜日。体調も回復し学校へ行くと、連休中メールで寝込んでいると知らせてあった佑美と弥代にとても心配された。
体調が逆戻りする気配もなく、普通に授業を受けお弁当を食べ世間話に花を咲かせ、そうやっていつも通りに過ごしたけれど、放課後、日常と化した保健室に足が向かう事はなかった。
それは次の日もその次の日もまた同じで、保健室に行かないままあっという間に二週間が過ぎた。
基本委員会は月一、球技会の時のように特別仕事がなければ保健室へ行く義務はない。先生は先生で保健室に引きこもっているから廊下ですれ違う事もなかった。だから決して先生を避けているわけではない……と思うのだけれど、足が保健室の近くへ行こうとしないという事は、やっぱり心の何処かで会いたくないと思っているのかもしれない。
このままじゃいけないとは思う。高瀬くんの件で先延ばしは良くないと学んだばかりだし、もうすぐ委員会だってある。その前に、一度話をするべきだろう。
そう、思ってはいるのだけど。
「気まずい、よね……」
どんな顔をして会えばいいのか。用事がないのに保健室に行ったら、先生に会いに来ましたと言っているようなもので。実際先生に会うのが目的だとしても、行ってどうすればいいのだろう。喧嘩をしているのではないから、仲直りでもないし。謝って欲しいのでもないと思う。じゃあ、キスをした理由を問い詰める? ……それが一番なのかもしれない。でも、そうしたら、何かが変わってしまう気がして。怖い。
「此処まで来たら、変化は免れないのかなあ」
でも、そう思えば思うほど身動きはとれなくなる一方で。本当のところ自分がどうしたいのか、さっぱり分からなかった。
「体育サボって独り言?」
掛けられた声に顔を上げると。
「高瀬くん……」
私は隣に腰を下ろした彼の顔をそっと盗み見た。まともに顔を合わせるのは実に二週間ぶりだった。
「……原田、最近元気ないよね。どうかした?」
当然言葉を交わすのも球技会以来になるわけで。
「え、うん、えっと……元気ないかな?」
緊張は、拭えない。
きちんと笑みを作ったつもりなのに、それはどうやら引きつっていたらしい。高瀬くんが私を見て苦笑した。