恋よりも、
「俺さ、ずっと原田に謝りたかったんだ」
そう言って、高瀬くんは遠い目をしてグラウンドを駆ける生徒を見つめた。私は黙って高瀬くんの話に耳を傾ける。
「……球技会の日、原田にふられて、俺自分をコントロール出来なかった。あんな事言うつもりじゃなかったんだ。ふられても、笑って終わりにしたかった。でも、いざ原田にごめんて言われてみると凄いショックでさ、それでつい、原田に八つ当たりしちゃって……。だからごめん、酷い事言って」
此方に顔を向け高瀬くんは真正面から私を見据えてくる。その眼差しが、ありありと彼の気持ちを伝えていた。
するとのしかかっていたものがすっと取り払われた気がした。
「……気にしなくていいよ。私も、もっと考えて行動するべきだったと思うし。反省してる。身の振り方を改める必要があるって高瀬くんのおかげで、気が付いたから」
微笑みながら言うと、
「それは違う」
高瀬くんは強い口調で否定した。
「原田は変わる必要なんかない。だって、俺は原田の、真面目で誰にでも分け隔てない所が好きだったんだ。いつも堂々としてて、でも笑った顔は滅茶苦茶綺麗で……。原田は立派だと思う。だからそのままでいてよ」
真剣な顔でそんな事を言うものだから、私の顔は嫌でも熱くなる。嬉しかった。私という人間が認められたみたいで。
「ありがとう」
下を向いてぼそりと言ったのが高瀬くんにはちゃんと聞こえていたみたいで、笑ったのが気配で分かった。
「俺も。好きになったのが原田で良かったと思うよ。原田のこと、ちゃんと諦めるから、友達として仲良くしてくれないかな」
断る理由が何処にあるだろう。
私は快く承諾した。
「あ、そういえばさ、原田最近保健室行ったか?」
「……球技会以来行ってないけど。……どうして?」
「あー、いや、べつに……」
歯切れが悪い高瀬くんを訝しげに見ると、高瀬くんは観念したように口を割った。
「……実は、さ、俺、球技会が終わった週明けに、加賀先生に言われたんだよね。その……原田が俺の事気にしてるって」
「先生が?」
目を瞬かせる私に、高瀬くんは苦笑気味に頷く。