恋よりも、
「ふられたからって相手に当たるのは子供のやる事だなって言われてさ。参ったよ……。全部見透かされてんの。俺、あの人には勝てる気がしないな。……、それで、考えたわけ。考えて、原田に謝ろうって決めたの。俺も悪かったし、このままでいたら自分にも負ける気がしてね。時間があいたのは……まあ、それなりに勇気が要ったって言うか……」
ばつが悪そうにお茶を濁す高瀬くん。
私は高瀬くんの話を聞きながらただ目を見開いた。先生が私のことを考えてくれているとは思わなかった。あの面倒事大嫌いな先生が。わざわざ高瀬くんにそんな事を言うなんて。
「……よく、分かんないけどさ、先生に会ってやれよ」
どうしよう。
「……うん」
今、すごく先生に会いたい。
「――っ香月! 危ないっ!」
「え?」
声を上げると同時だった。後頭部に重い衝撃が襲って、視界が霞む。身体が重力に従って傾くのが分かり、名前を叫ばれた気がしたけれど、段々と、声は遠くなっていった。
――――……
「――お前らが保健委員か。あー、始めに。保健委員だからって保健室でサボれると思ってる奴。保健委員だろうが何だろうが問答無用で突き返す。つーかもう面倒だから具合悪くても保健室には来るな」
それは、今年の四月。
初めての委員会で保健室を訪れた時。
今年からこの高校の保健医として赴任してきた加賀先生は、委員会のメンバーが集まると開口一番そう言った。とてもとても面倒くさそうに。
「委員会っつっても普段は仕事ねえから。やる時はちゃんとやれよ。それと、俺は他人の尻拭いするつもりはねえからそのつもりで」
唖然とするメンバー一同を余所に、先生は資料を見ながら淡々と話を進めていく。
「最初は身体測定か。ま、それは追い追い話すとして。仕事がある時はその都度呼び出すからサボるなよ。あー、後は……、委員長と副委員長か」
そこで先生は顔を上げ、生徒一人一人を順に見た。一人につき約一秒、目をやると視線を次に移していく。そしてそれが私の所まで巡ってきて先生の目が私を捉えた時だった。先生はおもむろに口元を吊り上げると、衝撃的な一言を放ったのだ。
「……じゃあ、お前、委員長な」