恋よりも、
数秒だけ、何を言われたのか理解できなくて。理解した途端先生に詰め寄った。
「あの、お聞きしたいんですが。どうして私が委員長なんでしょう? こういうのって普通生徒間で決めますよね」
「お前が一番つかえそうだったからに決まってんだろうが。委員長くらいつかえる奴じゃねえと俺が苦労すんだろ」
馬鹿にしたように鼻で笑う先生に、何て人だと思った。
「お前らも、こいつが委員長で異存はねえよな」
卑怯だ。そんな聞き方をされて首を横に振る人間がどこにいる。
「ほらな? っつーわけで、頑張れよ、委員長サン」
そう言ってぽんと肩を叩いてくる先生に眩暈がした。
「お前、名前は?」
生徒に直接名前を訊く教師って……。呆れながら、渋々答える。
「原田香月。三年一組です」
先生は……と聞き返そうとして辞めた。まだ記憶に新しい数日前の事を思い出す。
「先生は、加賀、加賀伸一郎先生……ですよね」
「へえ。よく覚えてんじゃん」
「新任式はまだ三日前ですから」
そんな事はともかく、私はどうしても言っておきたい事があった。
「加賀先生。勝手に委員長にされて、納得もしていないうえ非常に不本意ではありますけど……」
怠そうな目を向ける先生をしっかりと見つめて。
「任されたからには、誠心誠意委員長を務めるつもりです。ですから先生も怠けないでしっかり働いて下さいね」
それは、会ったばかりのこの厄介な先生に、一年間付き合ってやるという、私なりの覚悟。また、私を委員長に指名した事を後悔させてやるという、宣戦布告でもあり。
眉を寄せ、レンズの奥で面倒くさそうに目を細める先生に、
「一年間、よろしくお願いしますね、先生」
私は微笑を浮かべながら決意した。
――――……
懐かしい夢に口元が緩んだ。
ゆっくりと目を開けると、ぼんやりする視界。何度か瞬きをするうちに、焦点がはっきりとしてくる。
そうして目に飛び込んできたのは、白い天井。
鼻腔を擽る消毒液の匂いに。
全身を包む柔らかいシーツ。
覚えのありすぎるそれらに、考えるまでもなく此処がどこかを理解する。