恋よりも、


「あのなぁ、さっきからお前自分の事ばっかだけどよ、俺だってもうとっくに定時は過ぎてんだ。ただ働きはこっちも同じなんだよ。分かったなら手を動かせ、止まってる」

先生が相手にするのも面倒くさい、と鬱陶しそうに眉を寄せるものだから、私は目一杯の反抗心で恨めしげな視線を送り続けた。

一介の高校生である自分と社会人の先生とでは状況が全く違うと思うし、優雅に珈琲なんて飲んでいる先生には決して言われたくない科白だ。

理不尽な物言いに文句を言いたくなったけれど、この人に何を言っても無駄だという事は分かり切っているし、結局委員長の私がやるしかないわけで、悔しい事に先生の存在を頭から追い出して黙々と作業を進めるのが得策なのだった。

「そういや、球技会お前は何に出るんだ?」

先生はテーブルに広げられたプリントを一枚手に取ってそれを眺める。

「バレーです」

先の手を動かせという発言を根に持っていた私は、プリントに目を落としたまま手を休める事なく短く答えた。

「バレーだけかよ?」

「……何方かが、委員長は競技中以外は常に救護係で待機するようにと仰ったものですから。救護の方に専念することに決めました」

「……」

会話終了ですか。
まったく。自分から話を振ったのだから責任を持って会話して欲しい。不意に嫌味を言えばこうだ。
私は先生にバレないように小さく溜息を零した。


来週、この学校では二日間に渡り球技会が行われる。
その際、怪我人や体調不良者が多数予想されるため、保健の先生以外に保健委員が二人ずつ交替で救護係の応援をする事になっている。

当然保健委員も球技会には参加するわけで、出場する種目の時間と担当する時間とが被らないように考慮してスケジュールを組まなければならない。その担当の割り振りを球技の予定表やら種目のメンバー表やらを見比べながら決めているわけだけれど。これが非常に地味且つ面倒な作業なのだ。

しかもこれだけ綿密に割り振っても球技会はトーナメント制、試合の勝ち負けによってスケジュールは変わってくる。救護の仕事は、だからあってないようなもので、私達の働きが報われる事は殆ど無に等しい。

< 7 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop