恋よりも、
そうとわかっていながら、それでも手を抜かずにやってしまうのは、委員長としての義務感か頼まれたからにはという責任感故か。何にせよ、目の前にやらなければならない事がある以上割り切るしかない。
「……なあ原田」
しばらく作業に集中していると、不意に先生が声を掛けてきた。
「なんですか」
先生が顔を上げる気配がなかったので私もそのままで答えた。……のだけれど。
「腹へった」
「……は?」
耳に入ったその言葉に手が止まる。思わず顔を上げて目の前の気怠そうな顔をまじまじと見つめてしまった。
そんな事を私に言ってどうしろと言うのだろう。困惑する私が目に入っていないのかいるのか、いてもこの場合気にしてないのが正解だろう、先生の表情に変わりはない。
「……もう六時過ぎてんな。じゃあ飯でも食い行くか。労働の報酬だ、奢ってやるよ。ほら、原田、さっさと片付けっぞ」
「は、ちょっ、先生!?」
全く以て理解できなかった。
「なんだ? お前ん家共働きで親御さんまだなんだろ? なら問題ねえよな」
「っなんで先生がそんな事知ってるんですか!? ってそうじゃなくて!」
「なんだよ、お腹空いてねえのか」
「空いてますけど……ってだから!」
もう、埒が明かない。
話しが通じないにも程がある。先生は何なんだと言う感じで睨んでくるし。頭を抱えたい。
とりあえず落ち着こうと深呼吸を試みる。何度か繰り返すうちに波は穏やかになり、それから改めて先生を見た。
「ですから……まずいでしょう? 一応教師と生徒ですし、ご飯だけと言っても誰かに見られる可能性もありますし」
先生は分かっているのだろうか。
自分がどれだけ高い危険を犯そうとしているのか。
「大丈夫だ。余計な事考えんな」
思わず目を覆った。
分かっていなかった、この人は。
何を根拠に大丈夫だなんて言うのか。100%の安全なんて何処にも有りはしないのに。教師としての自覚を疑う。面倒を嫌う先生が何故リスクを背負ってまで私を誘うのかも分からない。
何にしても、今回ばかりは先生の言葉を聞き入れるわけにはいかなかった。