日常リバーシブル
今夜も彼は漆黒のピアノを背負って黒猫と一緒に夜道を歩く。

今夜はこの家だ。

ドアをそっとあけて部屋に入り、静かに頬を濡らす彼女のよこに座る。

理由はいらなかった。


しかし彼女は口を開いた。



悲しみに寄り添うようにピアノを奏でる。



彼の口からため息がこぼれる。



彼はふっと気がついた。

おかしなことに気がついた。


指がない。


自分の両手には一本も指がない。

メロディーが不意に止まった。

指がない。

指がなくなった。


混乱。


いったい何が起こったのか、さっぱりわからない。

指が一瞬にして、痛みも伴わず消えてしまった。

そう思った。

とにかくこれではピアノを弾くことができない。

そう思った。


「すみません、指がなくなってしまって、ピアノが弾けません」


「・・・え?あなたにはもともと指はありませんよ」


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