日常リバーシブル
???


さらなる混乱。


そういえば自分には指はなかったか。

確かめた記憶はない。

ただあるものだとばかり思っていた。

それでは自分は今までどうやってピアノを弾いていたのか。

「・・・さぁ?けれどあなたはピアノを弾いていたわ。そしてはじめから指はなかったわ。」

彼女の一度落ち着きかけた心臓はまたテンポを速めて頬を濡らした。

彼は何もできないと思って姿を消した。



どうやって今までピアノを弾いていたのか。

自分ではさっぱり思い出せない。

そして誰に聞いてもわからなかった。



波のように押し寄せる焦り。

ピアノを弾くことができない、という焦り。



しかし特に困ったことがおこるわけではなかった。

首から上の頭を使ってよく考えてみると、特に困ったことがおこるわけではなかった。


ただ夜にピアノを奏でることがなくなっただけ。

彼の読書と睡眠時間が大幅に増えただけ。

だだ夜通し声にならない涙の音が響くようになっただけ。

ときどきどこかで朝がこなくなっただけ。



夜に眠るようになった彼は明るいうちから外に出かけるようになった。

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