日常リバーシブル
その夜。

彼は黒いハットから黒いはねた髪を伸ばし

黒いスーツの上に黒いマントを羽織り

黒い靴下に黒い革靴を履き

漆黒のピアノを背負って黒猫と一緒に夜道を歩く。


今夜も声にならない涙の音がする。


今夜はこの家だ。

ドアをそっとあけて部屋に入り、静かに頬を濡らす彼女のよこに座る。

指のない手でピアノを奏でる。


理由はいらない。


しかし彼女は口を開いた。


悲しみに寄り添うようにピアノを奏でる。


彼の口元からほほ笑みがこぼれる。



彼はピアノを弾き続けた。



調弦の狂ったピアノを。

指のない手で。


♪~~♪~♪~~~~♪~~♪~♪

「ありがとう、ピアノマン」

「どういたしまして」

交わす言葉は今夜もこれだけ。

そうして彼はまた別の曲を奏でるために姿をけす。




 ~おしまい。~
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