アナタハシニマシタ
優次が勇に目をつけたのは恐らく驚異的な治癒力を見て感じ取ったのだろう。



事実、勇の――東野修の実家は名だたる武道家。そして両親から零月流(れいげつりゅう)という武術を立てるようになった頃から叩き込まれた。幼児虐待という言葉は訓練という言葉で消せるほど厳しいものだった。近所は毎日毎日子供の泣き声が聞こえても、『今日も派手にやっている。』という程度だった。だから警察沙汰になったことはないらしい。


修もその例に漏れず立てるようになった二歳半から訓練開始。最初は今ある骨を砕き筋肉を破る。そして回復させまた砕く。それを五年繰り返す。初めこそ人並みの回復力でも五年も繰り返せば骨の回復力と筋肉の発達力は常人のそれを超える。そうした土台があって始めて『修行』に入れる。


後は親の型を実戦で覚える。人間というのは必至になった時の理解力が高い。それも命の危機に直結するようなものだとより高くなる。まともな型、受け身を実戦で身につけさせるかなり荒いやり方だが、それがずっと続いているのだ。



そうして一応の力が身に付いて修行完了の証が出たのはほんの半年前。十七年かけて身につける命がけの力。それが零月流だ。



ひき逃げ犯『キラー』にやられた傷も気を失っている間に回復。体の調子は悪くない。恩義のためにここはこの仕事をやろう。


そうして修は資料に目を通すのだった。


< 13 / 46 >

この作品をシェア

pagetop