アナタハシニマシタ
修は一人でコンビニに向かう。なるべくおどおどした態度で店に入ろうと彼らの前を通ればいい。ああいう輩は自分より弱い人間に牙をむける。そこを返り打ちにしてやれば万事解決。ついでに骨の二、三本折ってやればもう二度としないだろう。


――弱い人間は自分より弱い人間しか相手にしない。強い人間は弱いふりをする人間を見破る。


父親に教えてもらった言葉だ。理由は教えてくれなかったが、なるほどこういうことか。力量を計れるのが強い人間。弱そうな人間を襲うのは弱い人間ということか。



修は寒そうな演技をしてジャケットのポケットに手を入れて猫背にして歩く。顔も少し下げて弱そうなふりをする。そしてコンビニに入ろうとする。



「おい、おまえちょっと待てよ」



談笑している少年グループの一人が修に声をかけてきた。修は、よし。と内心でガッツポースする。


修はビクッと体をびくつかせる。



「えっ、ぼ、僕ですか?」


動揺してさらに相手を上に立たせる。相手は修のことをかなり弱いと思っているだろうか。



「お前しかいないだろう。お前ちょっと俺たちに金貸してくれよ」



一応年上の人間にこうも慇懃無礼な態度をとるのに修は少し腹が立ったが、ここは我慢する。


「ええっ!?嫌だよ!何で君たちにお金貸さなきゃいけないんだよ!?」



全くもってその通りだ。と内心憤る。



修が後ろに下がろうとするが、後ろには少年が既に回り込んでいて逃げられない。



「逃げられないぜ。――さあ、俺たちに大人しく金を出すのと、ぼこぼこにされて金を持っていかれるのとどっちが良い?」



「どっちもいいわけねえだろうが」



修は構えを取る。上体を低くして短距離で走るような体勢になる。これが零月流の型の一つだ。これを見て少年たちは笑う。



「何!?こいつの体勢!?おかしすぎねえ!?」



「今からしっぽまいて逃げるのかな?逃がさねえけどな」



「こいつぜってーオタクだぜ。アニメのポーズなんじゃねーの!?」



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