アナタハシニマシタ
男の腕がゆっくり上がる。そして腕の伸びる限界まで引き上げる。拳を作る。目標は優次の顔。男二人を振り払える力だ。全開の力で頭部に当たれば即死は免れない。他の部分でも、腹部なら臓器を潰されるか骨を砕かれるか。どちらにせよ浅くない傷を負う。




「優次さん!」



優次はすんでのところで攻撃を右にかわす。男の攻撃はコンクリートを平気で突き破った。素手で攻撃したにもかかわらず痛みを全く感じていなように見えた。



「優次さんだいじょうぶですか!?」



すぐに修は優次の元に駆け寄る。ゆったりと起き上った男はゆっくりの歩みでこちらに向かって歩いてくる。



「ここは危険だから、お前は離れろ」



「何言ってるんですか!?こんな危険な奴一人で・・・」




「いいから離れろ!」




優次の怒鳴った声を聞いて修は渋々離れて行った。だいたい十五メートルくらいの位置まで離れると木村たち警官がようやく合流した。




「木村さん!早くあいつを・・・!」



しかし木村たちは一向に優次のところに向かわない。他の警官たちも優次と男のやり取りを静観する姿勢だった。



「俺たちは確かにこういうときは前に出るべきだが、あいつもプロだ。ここはあいつに任せた方がいいんだよ」



修は木村が何を言っているのかよく分からなかった。だが、加勢しないということだけはよく分かった。



男はもう一度振りかぶって優次に向かって右ストレートを繰り出す。優次はそれを避けて懐に入る。そして鳩尾に向かって蹴りを入れる。かなり効いたようで男の声が漏れる。そこに間髪入れずに肘打ちを入れて後ろによろめいた瞬間、側頭部に向けて飛蹴りを食らわせる。



男は崩れ落ちるように倒れこんだ。修はそれをただ茫然と見ていた。




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