ファーストキスは蜜の味。
あいかわらずシフトレバーを握る恭兄の左手は、それがクセみたいで離すことはなかった。
「なんで握ったまんまなの?」
「あー…
まえの車がマニュアルだったんだよ」
「……マニュアル?」
車の免許なんて持ってないから、なんのことだかさっぱり。
疑問形で返すと小さく、あぁ、といった。
「ギアチェンジが忙しいから、シフト握ってねぇといけなかったんだよ。
――…まぁ、クラッチのつなぎが浅い車だったから、全損になっちまったけどな」
「クラッチ…?
――…つなぎ?」
恭兄は、質問には必ず答えをくれた。
そっか……
こうやってちょっとずつ知ってけばイイんだよね。
恭兄と離れてた時間をとり戻すためにも、これからの時間をつくるためにも。