ティードリオス ~わが君にこの愛を~
仮設の宿舎に帰ることは許されなかった。彼女自身、機密情報の扱いとなったのだ。
離宮の一室を与えられ、荷物――と言っても大したものはないのだが――を解いていると、ノックの音。
扉を開き――跪いた。
「いや、楽にしてくれ」
「はい。殿下」
間近で見ると、かなり背が高い。五日前も会っていたが、その時はそんな余裕はなかった。今までつけていなかったのか分からないが、ロケットを首から下げている。王族の衣装ではあるが、略式のものだ。
「つくづく、すまないな。
――家族に連絡は?」
「あ――いえ、兄弟はおりませんし、父も母も、テューバッタ将軍と共に……」
「……そうか。すまない。
それで、若い身空で爵位を……」
「……はい」
王子の顔が、優しげに、哀しげになる。義兄となる筈だった人物のことを、思い出しているのだろう。
ややあって、
「……まさか、あの兄にこれだけの度胸があろうとは」
窓から月を見上げながら、呟く。
「考えているかもしれないとは思っていたが……実行するだけの勇胆さがあるとは思わなかった。私も姉上も。……まったく、誤算だ」
彼女が黙っていると、
「明日、第九期の開発部に行くが――悪いが、場所はまだ教えられない……その前に、もう一度ラインハルトに乗ってくれるか?」
キーを出しながら、言ってくる。
「大丈夫だ。手続きは踏んだ」