ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「し、しかし、何故?」

 戸惑いがちに彼女が尋ねると、少し哀しげな笑みで、
「あれには、ラインハルトのマニュアルが基礎として採用されている。
 ……ところで、神聖言語はどのくらい?」
「……会話程度でしたら」
「頼もしい」

 言いながら、彼が改めて差し出してくる、ラインハルトのキーを受け取り、思考が繋がる。

「……まさか……元々第九期には……」
「ああ」
 先程王子が浮べた哀しい笑みの正体が、ようやく分かったような気がした。
「私が乗るはずだった」

 もう一度月を見上げてから、袖をめくる。
 古い――銃創。

「まったく……守られてばかりだ」
 何と言えばいいのか分からなかった。思考を巡らせ、やっと言葉を紡ぎ出す。
「ま、守られるのは、悪いことではないと、思います。
 守られる方が、辛いことも……」

「……ああ。そうだな」
 王子の目を見て、自分が大したことを言えなったことに気づく。目を伏せ、
「……申し訳ありません」

「いや、いい。
 時間が空いたら、格納庫に来てくれ」
「はい、ティードリオス殿下」

「……ティオでいい」
 王子のその言葉に驚いて顔を上げたが、扉が閉まるところだった。

 ラインハルトのキーを握り締め、洸流はその場にへたり込んだ。



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