ティードリオス ~わが君にこの愛を~

 ――オー・ディセイ・ユーベット

 名もなきもの、という意味。イメージできればいいのだからこれで充分だ。
即座に、光が奔る。――起動完了。

『全軍、出撃!』

 ミルドレインの号令。空母ベリエットが動き始める。洸流も、そしてティードリオスもミルドレインも、格納庫で待機している。ヴィーセンタの格納庫は五つあるが、ここは最深部のものだ。

 およそ10分後、ハッチが開く。ミルドレインの声と共に、外に出た。

 モニターに、オレンジと黄色に輝く機体が映る。杖と翼の紋章。
 ――憧れていた。不敗の美姫・ミルドレイン。まさか、肩を並べて戦うことになろうとは。

 王城が、間近だった。作戦通り、高圧粒子砲《ゴルトセルン》を構え、発射する。出力、20パーセント。

 さほどの衝撃もなかったが、威力はあったらしい。王城のバリアを突き破って大穴が開いた。
 唐突なことにも怯まず、敵ヴィーセンタが迫ってくる。
 それを、GMRを振りかざし、オレンジの機体が切り裂く。

『行け』
 青い機体が光砲を撃つ中、ティードリオスの声に頷き、王城に突っ込む。

 簡単だった。敵ヴィーセンタもいたが、流石に城の中では殆どが歩兵だ。与えられた見取り図の通りに、玉座の間へ向かう。壁を壊しながら。

 幸いと言うか、国王はいなかった。いたのは――王太子。

 密閉状態を解除し、コックピットから降りた。

「騎士団所属、洸流・ホーレスト子爵です。王太子殿下、御投降下さい。生かして捕らえよとの御命令です」
 王太子に銃剣を向けるが、既に錯乱状態らしい。銃を乱射してきた。――まあ、これだけ無茶苦茶な実力差を見せつけられれば、錯乱もしたくなるだろう。

 それを合図に、動けた兵士も撃ってくる。

 彼女は、動じなかった。考えるだけでいい。それだけで、第九期の磁場が発生し、彼女を守った。

「……御投降下さい」
 弾の尽きた銃を振り回す王太子に、もう一度言った。



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