ティードリオス ~わが君にこの愛を~

「今のところ、問題はないな……」
 地下の訓練場。ヴィーセンタ用の広い空間の隅。白衣の男の後ろから、データを覗き込みながら、ティードリオスが呟く。

「予定通り、演習に入る。準備はいいか?」
『イレ・ルーヴュ・テオ』

 インカムから返事を聞き、自らラインハルトに乗り込むティードリオス。

 第九期のスペックから言って、第七期のレック程度では話にならないことは知っていたし、元々自分が乗るつもりで開発した機体だ。押し付けてしまったとはいえ、責任はできる限り取る事にしていた。

 姉ほどの技量があればいいが……そんなことを考えながら、演習用の剣を構える。

 ラインハルトやディーンハルトは、指揮官機だ。士気を高めるため、わざわざ迷彩に入らず的になることもあるが、今回はその必要はない。遠慮なく、迷彩に入って斬りつけた。

 がしっ! ティードリオスは顔を引きつらせた。

 迷彩状態にも拘らず、的確にラインハルトのアームを掴んだのだ。試作段階でティードリオスが乗ったときでも、これ程良い反応はしなかった。

「よし、行くぞ!」
 内装兵器を開放しながら、叫ぶ。彼女の返事を待つが、

『……あ……』
 聞こえたのは、そんな声だった。

「どうした?」

『きゃ――ああぁあっ!!』
「洸流!?」

 第九期の動きが、止まった。回線から、嫌な音が響く。

「洸流! 洸流!」
 がくり。安全装置が働いたらしい。第九期が頽れる。

「洸流! 返事をしろ! 洸流!!」
 インカムを着けたまま、ティードリオスは慌ててコックピットから出た。




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