ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「……う……」
「洸流!」

 呻き声に、慌てて駆け寄った。

「洸流! すまない! 大丈夫か?」
「……殿下……」

 彼女の声に、安堵の息を洩らし、
「洸流……すまなかった……」
 彼女の頭を抱き締めて、言う。

「……第九期は……」
「調整中だ」

 彼女の視線がはっきりしてきた。やがて、その向かう先に気づく。
「……ああ、これか」
 ロケットが、開きっぱなしになっていた。

「あ、いえ、申し訳ありません」
「いや、いい。
 ……初恋の相手だ。人妻だったがな」
 言いながら、首から鎖を外し、見せる。

「……? これ……」
 洸流が、怪訝な顔をする。ティードリオスは、苦笑いを浮かべ、

「気づいたか。監視カメラだ。
 写真を頼む間もなく、消えてしまったからな」

 無言で、時間が流れた。ややあって、ティードリオスは、決心し、唇を動かす。
「洸流……もう第九期には乗らなくていい。いや、乗らないでくれ。
 ……お前を失いたくない」
「……殿下?」

 彼女の両肩を掴み、翠の双眸で真直ぐに黒い瞳を見つめる。優しげな光よりも、強い意志を宿して。
「……頼む」

 暫く、ティードリオスを見つめた後、洸流は、しかし首を横に振った。

「私は、殿下に仕えます。この身でできることなら、何でもします。

 ……この命に代えても。

 それが、私の誇り。殿下、あなたに忠誠を」

 彼女は立ち、跪くと、ティードリオスの手を取って口付けた。
「イレ・ヴェル・オレーン・フォル・ルーヴュ・テオ」
 ――我が王にこの愛を。相変わらす流暢な神聖語に、ティードリオスはただ沈黙した。



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