ティードリオス ~わが君にこの愛を~
 改装の終わった謁見の間。聖騎士の正装に身を包んだ彼女は、王族の椅子の隣に立っていた。

 本来、王が座る椅子には、ミルドレインが座っている。その補佐に座った、ティードリオスの隣だ。

 ただ、人が流れ、やがて、
「フォーセット伯爵家の第五子。ミルドレイン殿下のお呼び出しにて参上しました」

 読み上げた近衛兵の声に、ミルドレインが怪訝な顔をする。洸流も、知った名前に眉をひそめた。
 入ってきたのは、やはり知った顔。

「――待て」
 ミルドレインが言うが、彼は停まらない。それどころか、儀礼用に身に着けていた銃を抜く。

 すぐに、洸流は銃剣を構えた。装飾性の高いものだが、殺傷力は充分にある。近衛兵も、それに倣った。

「銃を下ろせ」
「あ……ああ……洸流……」
 洸流の落ち着いた声に、彼は、震えながら銃を構え、
「戻ってきて……戻ってきてよ……僕のところに……」
 焦点の定まらない目で、彼女を見る。

「ねえ……洸流……」

 一瞬、疑問を表に出した、その瞬間。

 彼の目が、ティードリオスを捕らえた。ヒステリックに睨めつける。
「ティードリオス! お前が……お前が洸流を取るから……!」
 引き金を、引く。

 その一瞬、先に洸流の銃が鳴った。彼の銃が宙に舞う。

「洸流! 洸流!」
「……私は、ティオ殿下の聖騎士。それ以外ではない」

 彼が何を言いたいのか、大体察した洸流が言うと、彼は身を震わせ――次の瞬間。
「コウリュウーー!!」
 もう一度、銃声が響いた。


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