ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「……まったく、お前には苦労ばかりかける。
すまないな」
ティードリオスの自室で。彼はそう切り出した。
「いえ……正直驚きました。あんな風に思われていたとは」
「せめて、私が撃つべきだった」
「お気になさらず」
「私が……お前を……。そう思ったのか。彼は」
溜息混じりに、言う。やがて、
「……洸流。正直に言おう。私は……」
と、彼女を抱き寄せ、顔を寄せる。
しかし、ティードリオスは目を瞬かせた。彼女が、手を入れて遮ったのだ。
「……洸流?」
接吻を拒まれた。その事実を、ただ認識する。
彼女は、申し訳なさそうに微笑むと、
「私は殿下の騎士です。それが私の誇り。
邪魔はさせません。仮令――
殿下、あなたでも」
言い、跪く。
いつか、病室でしたように、彼の手を取ると、
「イレ・ヴェル・オレーン・フォル・ルーヴュ・テオ」
言って、口づける。
「……ああ」
そうだった。オレーン。
その言葉の第一義は感謝。第二義は愛。そして――第五義は、忠誠。
彼女を立たせ、
「……もし、私が……私を愛せと、お前に命じたら……お前はどうする?」
「……我が忠誠のままに」
言える筈はない。分かっていた。微笑み、敬礼した彼女も、それを知っていたのか。
「……待つよ。私は」
夕刻の光が差し込む中、ティードリオスが洩らした言葉の後に、沈黙が落ちた。
「イレ・ルーヴュ・テオ」
洸流がその一言を残して退出する。
――イレ……ルーヴュ・テオ。
その言葉を、ただティードリオスは噛み締めた。
何かを求めるように、ロケットを開いて見つめながら。
◇◆◇◆◇