ティードリオス ~わが君にこの愛を~
イミテーション・ヴィーセンタ
「…………」
不快そうな目をこすり、身体を起こした。
「…………」
暫く迷ったが、電灯のスイッチを入れる。
一瞬、目がくらむが、すぐに慣れた。後には、白々しく映し出された、四角い部屋。
「…………」
彼女は、ベッドから降りた。頭を横に振って眠気を覚まし、ヘッドフォンのプラグを挿してからパソコンのスイッチを入れる。起動中にヘッドフォンを被ると、やや大きい音量で起動のメロディが流れた。
ぼやけた頭にはやや響くが、この音量で無いと音楽を再生したときに満足できない。愛用のディスクの音源が小さめなのだ。起動後、すぐにミュージックプレイヤーをダブルクリックし、プレイリストの曲を再生する。
とは言っても、一曲だけだ。それを、延々と繰り返す。
別に、この曲に執着するつもりもなく、実はライブラリには150曲以上入れてある。それぞれ十曲ほどの、別のプレイリストもいくつかある。
しかし、何故かいつもこの曲を聴いていた。歌詞は知っているのだが、聴き取り難く、注意して聴かないと何を言っているのか分からない。勢いのある曲と唄で、盛り上がるだけ盛り上がるといった感じだ。歌手の歌唱力によるところが大きいだろう。
曲が終わり、また前奏が始まる。
壁には、アナログの掛け時計と文字だけのカレンダーしかない。そして、家具は備え付けのものばかりで、持ち込んだものといえばパソコンだけだ。まさに、必要最低限。