ティードリオス ~わが君にこの愛を~
 友人には殺風景とよく言われたが、改める気も起こらない。今回の部屋は、まだ誰も入れていないのだが、多分誰が見ても変わらないだろう。写真すらない。

 味気の無い時計は、およそ午前二時二〇分を指している。デジタルの電波時計の方が正確なのだが、あれは仕事のときだけで充分だ。どうせ、起床の時間のアラームはそちらから聞こえてくるし。

 暫くして、ヘッドフォンを置いて冷蔵庫まで行き、中から適当にジュースを出す。供給されている中で、一番小さな缶だ。酒は入っていない。勤務の性質上相応しくないと思うし、何より彼女は下戸だった。

 飲み干してパソコンの前まで戻ると、ヘッドフォンから音が洩れている。それを被り、曲の頭まで戻した。

 もう一度前奏から曲を聴きながら、インターネットを検索する。

 別に、調べたいことがあるとか、そういうことではない。他にやることがないのだ。
 ただ無作為に、情報を閲覧していく。時計を見ると、四〇分が過ぎていた。

「…………」
 栗色の髪を掻き、彼女はインターネットをたたみ、次いでミュージックプレイヤーもたたむ。パソコンをシャットダウンすると、ベッドに戻って明かりを消した。

「…………」

 ややあって、また電灯が点く。午前三時三五分。
 眠そうに目をこすり――彼女は諦めた。寝巻きから部屋着に着替え、またパソコンに向かいあう。

 また、ヘッドフォンを被って同じプレイリストを再生し始めた。
 そのまま時間が過ぎ――午前五時半。アラームがヘッドフォンごしに聞こえる。

 黙ってそれを止めると、冷蔵庫から今度は果物を取り出した。オレンジを切って皿に入れると、それをテーブルに持っていって食べる。食べ終わると皮を排水口に捨て、排水口のネットを外して取替え、使用済みのものを水を切るために脇に置いた。そして、手を洗うと、正装に着替え、髪を結い、部屋を出た。

 窓からは、カーテン越しに、朝の光が射し込んでいた。



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