ティードリオス ~わが君にこの愛を~
 しかし――そうも言っていられなくなった。義兄が何故、命をかけて守った機密か。愛するものを遺してまで、貫いた忠誠か。

 今は無き、ファイクリッドの名。そこに由来するフェルキンド。

 彼は、その名を継ぎ、その名に守られ、その名を行使する者なのだ。

 責任が――あった。何よりも重い責任が。

「よし、本格的調整に入る」
『イレ・ルーヴュ・テオ』

 ――生まれながらの責務から逃げますか?
 以前、そう言われた。当時の彼は、姉に甘え、甘やかされ、本当にどうしようもなかった。王族として生まれたことを疎ましくすら思っていた。

 首から下げたロケットを、開く。

 彼に、自らの全てを教えてくれた。過ちの全てを見せてくれた。責任の重大性を教えてくれた。

 そして多分――『彼』の轍を踏むなと。

 ロケットを閉じ、ラインハルトに乗り込んだ。
 今は、使命と忠誠のまま動く彼女をありがたく思おう。

 何を犠牲にしてでも、守るべきものがあるのだから。――彼女を喪う事になろうとも。

 ――フェーン・ルード・オム・ファイクリッド。
 全ては――ファイクリッドの名の下に。



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