ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「姉上の内偵では、コーレックは首都には行っていない」

 軍艦オーヴェルユの内部。第九期ヴィーセンタのバックアップ用に作られた軍艦で、先の王太子の騒乱には間に合わなかったものだ。迷彩も、第九期に準じたものが採用されており、これが発動している状態では、第八期以降の技術がないと、レーダーでも目視でも確認できない。他にぶつからないようにさえ配慮すれば、どうとでもなった。速度が制限されるのが、難点だが。

「従って、コーレックが流れたと見られる研究機関をまず叩き、そこから調査をする。
 既に、コーレックが流れて一ヶ月だ。模造機が完成している可能性もある。……まあ、コーレックを完全にコピーして量産していたとしても、第九期なら問題ないと思うが。
 施設の殲滅は行うが、調査ができる程度に原型を留めるよう配慮してくれ」

 作戦開始まであと六時間。最終調整と最終確認だった。

 そこまで言って、彼は、いつもならとっくに返ってきている筈の返事がないことに気がついた。
「……洸流?」

「…………
 ……あ、はい。殿下」
「どうした?」
「……何でもありません」

 眉をひそめた。テンポも遅い、反応も鈍い。
「どうしたんだ? 言え」

「何でも……」
「そうは見えない」

 言い、第九期に歩み寄ると、問答無用で緊急開放用のキーを差し込んだ。すぐに、コックピットが開く。

「申し訳ありません
 ……ただの、睡眠不足です」
 虚ろな様子で、彼女はそう呟いた。



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