ティードリオス ~わが君にこの愛を~
『殿下の身に、もしものことがあったら!』
「作戦は遂行せねば。それなら、ラインハルトよりもこちらの方が確実で安全だ」
『それはそうですが!』

 と、通信回線が開いた。金髪の女が苦い顔で、こちらを見ている。
『ティオ……鼓擢(こてき)に聞いた』

 もう一人の研究者である。声がしないと思ったら、連絡を取っていたか。
『こちらから、新たに部隊を派遣する。今回の作戦は延期だ』
 隠密行動とは言え、少数精鋭に絞りすぎたと、嘆息する。

「いえ、姉上。最優先事項です」
『洸流のことで……取り乱したか? 四年前に戻ったようだぞ?』
 やや呆れ気味の姉の声に、彼は目を見張った。

『冷静になれ。洸流の話を聞いたが……心配はないだろう。
 それに、仮令今を見送ろうと、半日遅らせれば彼女も出撃できる。違うか?」

「…………」
 黙ったその時。

『殿下!』
 声が、また響く。
「……洸流!?」
 モニターに映ったのは、紛れも無く洸流。軍服のジャケットを肩に掛け、駆け込んできたところだ。
 遅れて、鼓擢。どうやら、呼びに行っていたらしい。

『殿下。私なら大丈夫です』
 真直ぐに、見つめる瞳。
『こんなの、殿下らしくありません』

 ――ふぅ。
 静かに嘆息し、密閉状態を解除した。
 チップを外して彼女に渡すと、
「……すまない」
 そう言って、退出した。作戦決行まで、あと二時間半だった。



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