ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「……くっ……」

 衝撃が去って、ティードリオスはコックピットの中で呻いた。友軍の信号を見ると、さっき着陸したデューレックはロストしている。他には、近くに下りた、最後のデューレック。王太子のレック合計四八機に追われた結果だ。――ヴィーセンタ同士の戦闘が、ここまでだとは。

 通常モードに戻し、密閉状態を解除する。

「殿下! ご無事ですか?」

 最後の一機――デューレックから下りてきた女が、叫んでくる。ティードリオスは少し目を瞬かせた。若い。

 長い栗色の髪を三ツ編にしている。臙脂の軍服に肩のライン――騎士か。

「……お前は?」
「申し遅れました。第五騎士団所属、洸流(こうりゅう)・ホーレスト。……子爵です」
「爵位を? 年は?」
「二一です。ルーヴュ・テオ」

「……同い年か……」
 親愛なる王――神聖語では王と王族を区別しない――と、敬礼しながら言った彼女に、ぽつりと洩らす。
「……は? 失礼ですが、殿下は二〇歳では?」

「あ、いや、こっちの話だ。
 それより、ホーレスト子爵、お前はラインハルトに乗れ」

「……は?」
 彼女は、黒い目を瞬かせ、
「……ハ、ハルトに……でありますか?」
 戸惑いがちに、言う。

「事態が事態だ。追っ手が来る前に、急げ」
「し、しかし殿下は……」
「お前のデューレックに乗る」
「できません! 殿下をレックなどに……」
「このままでは二人とも死ぬ!」
 一喝すると、彼女は黙った。

「――イレ・ルーヴュ・テオ」


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