ティードリオス ~わが君にこの愛を~
 ――嗣庚共同共栄体、葉零島(ばれいじま)。
 ――午前三時三〇分

「時間だ。作戦を開始する」
『イレ・ルーヴュ・テオ』

 葉零島――嗣庚共同共栄体の小さな島で、内偵の結果、その全てが嗣庚の研究機関であることが分かっている。秘密裏なせいか、時間のせいか――いや、時間だけならそういうことはないだろうが、今は闇に閉ざされている。

 葉零島の施設からは分かる筈もないが、近くにヴィーセンタが二機、浮いていた。迷彩状態でなかったら、フェルキンドの王家の紋章が確認できただろう。

 仮令、コーレックのコピーに成功していたとしても、第八期と第九期。問題はない。

 と、破壊しようと思っていた施設から、信号が出始めた。
『救難信号です。……間違いなく友軍のものですが……どうなさいますか?』

 ティードリオスは眉をひそめる。隠密行動ゆえ、通常とは違う回線を使用している。友軍とはいえ、繋がる筈はないのだが……。
「様子を見る。警戒を怠るな」

 オーヴェルユにそう指示する。――と、次の瞬間。

「洸流!?」
 突如、第九期の信号がロストした。回線を開くが、答えはない。

 呼びかけるうち、施設の方に変化があった。隔壁が開き――中から、見慣れた影。
「……奪取されたコーレックに間違いないか?」
『はい。恐らく』

 ――おかしい。この状況で出てくるとは。彼らがやって来たことを知っていたようだし、そもそも、何故迷彩にも入っていないのか。無用心、油断、自信……いや、違う。
思い出した。やっと。

 ――知っている。この感覚。

「洸流! 構わん! 破壊しろ!」
 彼は、叫んでいた。

 そして――第九期の、高圧粒子砲《ゴルトセルン》が、辺りを凪いだ。

 葉零島は、消滅した。



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